誠実だと人に紹介していた人が
大法螺吹きだと知った。
以前付き合っていた人である。
その人は煙草は嫌いだと言ったが、
どうも私に隠れて吸っていたらしい。それも酷い話で「今日煙草臭いよ」と指摘した時「煙草吸う友達の家に居たから臭いうつっちゃったかな」などと返されていた。
それもこれも共通の友人から教えてもらったのだが、新しく彼女が出来たらしい。私のことをずっと追いかけるなどとほざいていた日から若干3ヶ月。
尚も傷をつけられるとは、ひとつも塞いでは貰えなかった傷口は膿み脳内を侵す。誰も信じてはいけないなんてことは無いのに。見る目がなかった過去によって己が壊されていく。
古来から、正直者は馬鹿をみるといった。
ふざけた話だ。
初めて付き合った人と別れた話▼
私の両親は誠実であった。
誠実に生きることが正しいと信じて止まなかった。だから、子である私は、正直に生きなさいと教えられた。なにも間違っていないと思った。
しかし家計は苦しかった。
誠実であるからこそ、父も母も利用されるのだ。
社会にも、人間にも。
だからある時からお金はなかった。
車を売った時
コンプレックスが産まれた。
人のお小遣いを聞く度嫌な気持ちになった。
好きな物を労働の対価以外の紙幣で得ている人を敬遠した。両親によって与えられるお小遣いが少ないと嘆く高校の同級生を同じ人とは思えなかった。
お金が無いと両親が口にする度、生きていて申し訳ないと感じた。
産まなくてよかったのにとも思った。人一人分の生活費が、学費が、無くなる方がいいだろう。
考える度脳みそは駄目になっていった。使えなくなった。
世界情勢も、政治も、用途不明に使い込まれた金も、私が誠実に生きたところで戻らないのだ。
そんな風に、軈て物を考えるだけで自分という存在がいやに迷惑だと感じた。
でもまだ、夢を見ることができた。
生きることを諦めきれなかった。
好きなアイドルがいた。
生活を肯定してくれた。
人に絶望をした、半分縁を切った。
その後別の人と出会った。
彼は胡散臭かった。見た目も喋り方も。だからいっそのこと騙されてみようと。
風変わりなダンスならこの際一緒に踊ってやろうとその手を取った。
平然と嘘のようなことを言うし、当然信じたら傷を増やすことになるから受け流していた。
ある時、好きだといわれた。不自然なタップだと思いながら見ていた。
ある時、彼の学校に誘われた。文化祭のようなものだ。そんな所に呼んでくれたことに彼の踊りは真剣なのかもしれないとどこかで思っていた。
合流した彼は見違えるもので、髪は頭髪検査に引っかかって切らざるを得なかったと前日から聞いていたものの、そうではなく、普段とは違うヘラヘラした様子が一切なく、口角を上げて喋らない。そして妙に口数も少なく何より、身長が低かった。
単に言えば真面目、しかし低燃費といった具合で、やる気があるようでどこかないような瞳と、私と歩くことを冷やかすような同級生への態度といったらこれまで見たことの無い「面倒臭い」「邪魔」といった雰囲気であった。
なんだか知っている人と違うと驚いたものの、さすがにその場で指摘したところで嫌な気持ちにさせる可能性もあるため黙っていたが、出店的な場所でご飯を買って、二人きりになったとき彼はいつも通り微笑んだ。その笑顔に安心した。そう、この表情だ。
けれど、普段みれない真面目な表情はこのへこんだ心を惹きつけた。
文化祭が終わり、片付けが終わるのを軍艦が見える公園とショッピングモールで潰し、漸く全てが終わった彼と合流し別の駅へと向かった。
彼が居酒屋に入りたいというので少し探してそのままはいった。
本人曰く3%の缶のアルコールを人と半分こする程度がちょうどいいらしいので、お酒にはめっぽう弱かった。
一杯、エナジードリンクで割ったお酒でそれは仕上がっていた。
コカボムのような強いパーセンテージではなく普通の、ウィスキーか何かが指2本分位だったと思う。しかもこちらもまだ一杯しか飲んでいないのに「はやくこの酔い具合についてこい」と走り出してゴールが分からなくなっている様子であった。
堪らなく愛おしく感じた。
彼はヘロヘロで、私にもう一杯飲んでよとすすめてきたので甘そうなお酒を飲み、少し美味しそうなつまみを食べてお会計をした。
ふらふら歩きながら飲み足りないと駄々をこねていたので少し歩いた所に位置する激安ジャングルまでお酒を買いにいった。
3%のお酒を1本カゴに入れて満足そうに口角を上げた男に、6%の個人的に美味しいと感じたお酒を勧めたものの「6%ってめっちゃ高いじゃん...」とあまり乗り気でなさそうに言い放ったのでじゃあこれは私の分にすると告げ、カゴに放った。これではわざわざ激安ジャングルまで歩いた意味があるのかと思いながらレジに並んだ。
しかし楽しかった。
10分しないほど歩いてホテルに着いた。
彼のご両親が友達と泊まるだろうと抑えてくださっていた所で、駅からも近くとても綺麗なホテルだった。一緒に泊まるのはそれが初めてだった。
色々話したような気もするし、四捨五入したらやっと10%である缶に身を任せた気もする。
大きなベッドが2つ並んでいたが、彼は近くに来てくれた。日中とは違い微笑みながら眠る彼を横目に、このまま踊り続けたいと瞳を閉じた。
その翌週、男とは関係性が変わった。
友人から、恋人になった。
それからの生活というもの、優しさや真面目さに感服する日々だった。凄く誠実であった。
以前付き合っていた人に感謝をしていた。
なぜならこんなに素敵な新しい巡り合わせを、そのタイミングで私が別れを切り出したから叶った物だと思っていたからで、そういった事に感謝ができる人間になることが願いでもあったから。
感謝していた一方で、そのようなしょうもない嘘を、そのような人を騙す人間を信じてしまっていたのかと病気は私を責め立てた。
考えたくない、できれば今の幸せな感情だけで息を吸って愛してる者だけを抱きしめていたいのに、治ったとか良くなったと信じていた鬱病は私の肩を掴んで離してくれない。
この病のお陰で同じ病を持った人の気持ちをわかるようになった、それは経験しなくては出来ないから。きっと誰かに寄り添うことが出来ることには患って無駄なものだけではないと考える他なかった。でも、こうして突然もういない必要の無いはずの人の言動で私は天から地へと叩き落とされる、いとも簡単に。
双極性障害の私は、もしこの幸せな感情が躁状態であったら、通常に戻った時幸せを同じように感じられるのか。いやそもそも立ち直ることが出来るのか。
不安ばかりだった。
楽しいことを楽しめない感覚を思い返すと嫌になる。そんな風になりたくない。
例えばコンサートを見終わった後、大きな喪失感に襲われ涙が止まらない時期があった。そんな時期を思い出してしまう。嫌でも蘇ってくる。
私が私で無くなった時、やはり私は誰かに愛されるなんてできないのだろうか。
昨晩襲ってきた不安に恋人のLINEを開き尋ねる。
早朝、帰ってきた答えは「おっぱい」であった。
全て、どうでもよくなり彼のことが好きだなあと貰った花を眺めながら考えている。そして思った。バカをみようが誠実に生きてやると、