初めて人と付き合って、それに終わりとエンドキーを押してから1ヶ月が経つ頃、私は新世界を探し始めた。
夜明けを憂う散歩
家庭は、色々な意味で厳しく成年となっても
所謂夜遊びをしたことはなかった。
きっと聡明であったから。
そのようなことで親の期待を裏切ることはしたくなかった。
しかし私は法的に認められた基本的人権を所持する大人であり、己の意思でそういった「これまでとは違ったこと」をすることもひとつの勉強であると判断した。
職場の元先輩と愛らしい甘味を瞳と腹と写真フォルダに蓄え、別れた後日本の果てのような街を去ろうとした。
私の考える夜遊びとは単純であり
「一晩だけ命を重ねる遊戯、夜明けまで踊りあかす、十数%のアルコールに夢をみること」くらいで、とりあえずお金のかからなそうなことをしてみようと思った。
そこで声をかけられる。
「散歩しませんか?」
そうか、これか。
軟派についていく、確かにしたことが無い。
そしてしないようにしていた、何故かってそんな人間信用に値しないからだ。
そういった考えを飲み込み男に着いていくことにした。
程なくして到着したのは男女が混ざり合うであろう宿泊施設であった。
私は、前の彼と別れるまで、初めてを成年まで大切に貫いていたし、声をかけてきたその人の顔も喋り方も好みとは違ってあまり乗り気ではなかったので、入ってもいいけどなにもしないと予め伝えておいた。
心の準備とは違い自動で開くドアに男は入っていったがどうやら人が居なくてチェックインができないらしかった。意外と神様などは見守っているのかもしれない、など思いながらトマトジュースを折りたたむまで飲み干すと、隣のホテルなら。と言い出すのでとりあえずついていくが、現金のみということに男は落胆し、先程の場所に戻ってきた。
私は助かったと思いながら「これだけ格闘しても人が来ないってことは今はそういうことではないんですよ」と言いその人と別れた。
それからしばらくあのゲームの再現度は高いなとゴジラが覗くビルをぼーっとみつめたりして、自分に夜遊びは向いていないんだと踵を返し駅へ向かっているところだった。
「お姉さん何飲んでるの?トマトジュース?面白いね」
明らかにつまらなそうな言葉、この街らしい見た目、ヘラヘラした男。しかしさっきよりは幾分ましだろう。そんな思いで簡単に着いていく。
しかしそれでいい、これこそ私の考える夜遊びであった。
内心“男”に声を掛けられることが嬉しい自分と、このような生き方は誤りじゃないかと葛藤する自分がいたが、こんなところで足踏みしても得られるものなどないから、多少の失敗ならしてみようと私の足取りは軽やかであった。
彼もコンビニに寄り何飲みたい?と紙パックのジュースを差す。ここでは紙パックが遊びの相場らしい。先程飲んだトマトジュースをゴミ箱に捨て考えていると「やっぱり俺が決めるわ、これ」
指さしたのは飲んだことのないお酢のジュース。飲んだことないからじゃあそれで、そうして思い出せもしない程とくに身にならない話をしていたのだろう。気が付くとネットカフェが入ったビルの真下でジュースを飲み干してしまったらしい。
ここ、めっちゃおすすめ
そういってエレベーターが開いたのは当然ネットカフェの階だった。
しかし想定していたより広くて綺麗だったが
異常なほどホストであろう男性と、洋服以外さほど身なりに気を使っていないような女性がたくさんいた。
いや、今思い返すと身なりに気を遣うような年齢にすら達していなかったのかもしれない。
さすが、トー横とかいう位だ。
この国の果てという認識は間違っていないだろう。
織り交ざるのか。
覚悟をして踏み入れた部屋だったが、
ここで命をを燃やしてどう変わるのだろうか。
人生は分からないから楽しいのか。
他愛もない会話。お互い自分のことをよく言うような会話で格好つけて、しばらく時間は進んだ頃、私に触れた手は冷たかった。それが始まる合図だとはさすがに社会経験の少ない私でもわかった。今は良かった。冷たい手でもなんでも。
白熱、するところだった。
ここからというところで彼は言った。
「そのままでいい?」
当然困る。無理と返答する他ない。すると「持っていない」などという。だから無理、それか買いに行こうと告げるとだったらホテルでいいや、と言い急いでお互いはだけた服を直し何事も無かったことを悟って欲しいように髪に櫛を通し、この部屋とインターネットカフェから逃げるように外へ向かった。
不思議と楽しかった、両親の教えに背いてることなのか、今までの生活では有り得なかったからなのか、知らない人の自然体を観てなんだか本当に不思議だった。
だからなんの遠慮もなくホテルに入った。昂っていた。名も知らない男に。
ホテルのチェックインを済ませ新しい道のドアを開ける。これを閉めたら帰れないだろう。元の自分には。
しかし変化を望んだのは己だから、躁に身を任せて迷いなくドアを閉める。
男の命は熱く温かかった、その中間くらい。
その温度に安心した。
お互い疲労し、浅い呼吸の中
私は口を開けると世界平和について語り始めた。
彼は笑う、しかし否定はしない。夢が大きいことより、夢の種類を笑っていた。
そこで色々な話をしていた。事を含めて1時間くらいだろう、そんなに長くはなかったがなんだか自分が少しづつ、アップデートされていくような、自分が別の物質に変化していくような感覚に襲われた。不思議と恐怖はなかった。
「連絡先交換しようよ」
「いいよ」
二つ返事で許可を出していた。
その次の週、彼と遊ぶことなんて考えもせず
その日はそれを謳歌した。
あっという間に上着がないと震え上がる温度の中私は新しい感情に出会った。